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基 本 戦 略


-メダカについて

 メダカ(O. latipes)は日本本州から・韓国・中国南部までに分布する淡水(あるいは汽水)小型魚類であり、その近縁種も東南アジアの多様な環境に広く分布している。メダカの特性としては、毎日の産卵が可能である点、野外での飼育が可能である点、兄妹交配を重ねて得られた近交系や自然突然変異体が利用できる点等が挙げられる。


-モデル生物としてのメダカ

 フグは、そのゲノムサイズの小ささから、ゼブラフィッシュは、遺伝学的な手法と実験発生学の手法の統合が可能な点から、ともにモデル生物としての重要性が注目されている。これらに対しメダカは、耐病性に優れ、大規模な屋外飼育が可能であり、人為的性転換、単為発生、生殖細胞突然変異、染色体操作、胚操作、遺伝子導入などの技法を駆使することも可能である。さらにこれらの技術を遺伝的に均一な近交系集団を用いて行うことができる。遺伝的に離れた近交系系統を用いた連鎖解析により1200の遺伝子マーカーが確立され、さらに、近い過去における種分化によってもたらされた近縁種と現在も進行しつつある種分化の中間的亜種の存在を最大限に活用できる。これらの特質は、ゲノムを解析する上で、フグやゼブラフィッシュにはないメダカの利点として特筆に値する。


-メダカゲノム研究

嶋・島田は、メダカ生殖細胞に生じる突然変異を特定座位法により検出するテスター系統を樹立した。そのデーターは、小型魚類の大規模突然変異体スクリーニングの基盤となり、ゼブラフィッシュやメダカでのゲノムワイドの突然変異体のスクリーニングが行われるようになった。近藤・古谷―清木によると、驚くべきことに、同規模のスクリーニングにもかかわらず、形態形成に関わる突然変異体には、ゼブラフィッシュには見つからなかったものが多く見られ、魚類のゲノム構造の多様性を示すものと考えられている。メダカの最初の連鎖関係は1921年に会田により報告され、その後、60以上の自然突然変異体の検定交配が名古屋大学の富田により報告された。現在では約10万のメダカEST配列が登録されており、そのうち1000の遺伝子マーカーが連鎖地図上に配置され、Mbaseに公開されている(http://mbase.bioweb.ne.jp/~dclust/ml_base.html ). ゲノムBACライブラリーも慶應大学清水グループの協力により相互に遺伝的多型的である北日本集団・南日本集団からそれぞれ樹立され、ゲノム解析に利用可能となっている。これらのゲノム研究のさらなる進展の効率化を図るべく、the Medaka Genome Initiative (MGI)が設立され、情報公開と国際共同研究の推進が図られている(http://www.dsp.jst.go.jp/MedGenIn/index.html)。

平成14年度文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト「ゲノム解析等」により、ホールゲノムショットガン法による解析が行われた。その結果、約100万リード、726 Mbpの情報が得られた。 メダカのゲノムサイズは約800Mbと推定されるので、全ゲノムの0.9x分に相当するこれらの配列データーが既に公開されている (http://shigen.lab.nig.ac.jp/medaka/genome/abouten.html)

 現在、ホールゲノムショットガン計画(文部科学省特定領域研究統合ゲノム 代表者小原雄治国立遺伝研究所教授)では、メダカゲノム800Mb分の5倍の量のWGSを行い、アセンブリーを行う計画である。この結果は、WGS法で行われたフグと同様に、高い精度のシーケンス結果が95%以上の領域の配列がカバーし、ほとんどのメダカ遺伝子の配列情報を得ることが可能だと予想される。しかしながら高速でラージシーケンスが可能なWGS法には、いくつか欠点も存在する。フグの場合、ゲノムサイズが約300Mbと小さく反復配列が少ないにも関わらず、現在もアセンブリが終了していない。このことからメダカではさらなる困難が予想される。このため、新しいWGSアセンブラが必要とされており、東京大学森下教授のグループがその開発に取り組んでいる


-メダカCBCゲノム計画の概要

BAC library/EST library/ EST mapping/WGSなどのデータもそろい始め、メダカはゲノム資源が最も整備されている生物の一つとなりつつある。メダカはゲノムシーケンスを決定する価値が高く、その資源が十分にそろっている数少ない生物である。メダカのゲノム情報の高精度化に関して慶應大学清水信義教授のグループは、ヒトゲノム計画に参加した経験からこれまでのBAC cloneを基本としたClone by Clone(CBC)法とWGS法を融合させた新しい戦略を提案した。新しい戦略の第一段階として、LG22にマップされるBAC clone6X相当のshotgun sequenceを行い、1つの染色体の高精度シーケンシングを文部科学省特定領域研究 メダカゲノム再編(領域番号813,代表者嶋 昭紘 東大名誉教授)のプロジェクトとして関連研究機関と連携して推進している。

更にこの次のステップとして、他の全染色体に対しマッピングされたもしくはランダムに選択したBAC cloneを、可能な限り少量のshotgun sequenceを行いWGSデータと融合させることで、WGS法から得られた精度の高い配列をBAC cloneに基づいて整列を進めていく新しい染色体のシーケンシング法の確立が可能となる。このために必要な高速にshotgun libraryを構築する新規方法の開発(The High Through-put system for Shotgun Libraries construction (HTSL))も行い、既に完成している。


-メダカLG22 シーケンシング戦略

  LG22プロジェクトでは、これまでに得られたESTマーカーの情報を基にBACクローンコンティグの作製を行い、シーケンシングを進める。また、BAC end sequencing プロジェクトも慶應大学清水グループによって同時進行しており、シーケンシングの終了したBAC クローンの隣接BACクローンを検索することも行っている。BACコンティグの作成に当たっては、ドイツMax Planck 研究所 Heinz Himmelbauer グループを中心として、ESTマッピングに関しては東京大学三谷 啓志グループ、RHマッピングに関してはERATO近藤分化誘導プロジェクト 近藤 寿人・清木誠、染色体FISHは、ドイツWuerzburg 大学 Manfred SchartlIndrajit Nandaが担当している。

 これらの選ばれたBACクローンに対し、各6Xとなるようにshotgun法によりシーケンシングを進めている。この結果、ギャップが5〜20程度生じるが、プロジェクトの第一段階ではWGSデータと融合させた後に、scaffoldを完成させるのに必要なgapのみをPCRで確認する予定である。