野生メダカ系統保存
 我が国の淡水に生息する野生メダカ(Oryzias latipes)は、多くの遺伝子が 異なった地域集団が各地の水系ごとに生き続けてきた貴重な野生動物です。 しかし最近、人為的に放流されたブラックバスなど外来種によって捕食され たり、護岸工事によって繁殖ができる環境がなくなるなど、生息環境の急激 な悪化によって生息数が激減するとともに、異なる産地のメダカを購入して 放流する人や団体のために、各地域にもともとすんでいたメダカが次々とい なくなってしまったため、1999年2月には環境庁(現 環境省)の絶滅危惧 種に指定されました。
 昭和60年度に東京大学で開始されたメダカ系統保存事業では、日本全国を 網羅するほとんどの地域および国外から採集されたものを含む約100地点の 野生メダカが、地域固有集団であることが確認された上で、厳重に飼育維持 されています。保存されている系統のほとんどは、現在すでに野生には生息 していません。
 これらは、我が国における100年近いメダカ研究史の中で開発蓄積されて きた貴重な学術遺産であり、飼育保存する意義がきわめて高いものです。  メダカは種内の遺伝的多様性が極めて高い種であり、それに応じて種内の 表現型も大きな多様性を示します。例えば、通常メダカは受け口の特徴的な 顔つきをしていますが、ハゼのように丸い顔をした系統があります。卵の大きさ にも多様性があり、産卵する時間帯にも多様性があります。メンデル遺伝する 形質については、ポジショナルクローニング法によって、その責任遺伝子を 特定することが可能です。
 柏キャンパスの新領域屋外メダカ飼育場において系統維持している野生メダカ 集団は、多用な表現型と遺伝子をプールしたメダカ図書館と言えます。