研究室概要
生命が存続するためには、有害な紫外線あるいはラジカルによって ゲノムーDNA に生じる傷を監視し、見つけしだいに修復する DNA 修復機構が必要不可欠です。なぜなら、この機能が破綻すると有害な変異がゲノムに蓄積し、ひいては突然変異や発ガンあるいは老化の原因となって、やがては生物個体の死につながるからです。
一方で、ゲノム情報の適度な不安定性はゲノム情報の環境適応的な変革を可能にし、種の進化の大きな原動力となって地球上における生命の多様性を実現してきたと考えられています。つまり、完全にゲノムが安定で不変であれば、生物の進化は起こりえず、従って我々人類も誕生しなかったことになります。
このように、生命は、ゲノムの安定性と不安定性とをうまくバランスをとりながら多様性を獲得し、営々とこの地球上で進化を続け繁栄してきたと言えます。
本研究室では、生命の多様性がいかにして実現してきたのかを解明するために、主にメダカを実験材料として研究を進めています。ゲノムの安定性を保証するゲノム情報維持機構とゲノムの不安定性を可能にする生殖細胞における突然変異機構、すなわち保守的なゲノム維持と革新的なゲノム変異とがどのようにバランスを保ちながら生物の多様性を実現してきたのかを、ゲノムから個体レベルにわたって包括的に研究を進めています。
また、メダカは新世代の実験脊椎動物としても近年注目されています。メダカは我が国においては古く江戸時代からペットとして飼育されてきた経緯もあって、遺伝学が非常に発達しています。さらに、近年はトランスジェニックメダカの作製、ポジショナルクローニング、ゲノムプロジェクトの進展などによって、ヒトゲノムプロジェクトにおいて今後遺伝子機能を個体レベルで解析する際にはメダカがモデル動物として非常に有望であると考えています。マウスよりももっと小回りの効くポストゲノムシークエンス時代の次世代モデル生物としてメダカを日本から世界に発信していけるように、実験生物としてのメダカのさらなる開発にも力を注いでいます。我々の研究室は、三谷教授、尾田講師の体制でスタートしたばかりの新しい研究室です。同時に、前身の放射線生物研究室は我が国におけるメダカ研究の老舗の一つでもあり、メダカ研究の豊富なノウハウ、多くの系統、さらに日本全国から収集維持されている80を越える野生のメダカ集団を有しています。遺伝子レベル、分子レベルから個体、集団レベルまで、メダカという生き物を丸ごと包括的に捉えて、生物とはなにかを問うような研究を進めていきます。熱意とやる気のある諸君の参加を歓迎します。